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「岐阜の自然考」をめぐる旅

見て知ることが第一歩。あふれだす身近な自然への愛情を18名の執筆者が語るエッセイ『岐阜の自然考』。その舞台をめぐる旅に出ます。

禁鰻の聖地へ・ニホンウナギと土用丑の日

今年もこういう季節がやってきました。2016年は7月30日が土用の丑の日。スーパーやコンビニの店頭の、ウナギの蒲焼きのチラシに目を奪われます。
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美味しそうですね~。ですが今回のテーマはズバリ「禁鰻」です。禁マン・・・!カタカナで表現するとなにか縁起でもない感じになっちゃいますね、そして今たくさんの人がブラウザの「戻る」ボタンをそっと押しましたね、すみません後は真面目な内容になります。

 
自然考の「禁鰻のススメ」の元ネタは恐らくこちらです。右利きのヘビで有名な京都大学の細将貴さんが学生食堂でうな丼を提供する大学生協に対して意見窓口に投書したもので「乱獲によって資源が減っているのが分かっていて、それでもなお大量消費をやめない社会を憂いて、まずは学問の府にいる自分たちから鰻の消費を慎もうと呼びかけた」(自然考より引用)というのが本意だそう。当時(2013年)、生き物に関わる人々の間では結構話題になりました。


さて禁鰻といえば、日本全国には、減少し続けるニホンウナギの絶滅を危惧して・・・というのとは全く違う理由でウナギを一切食べない人々が住む地域がたくさんあります。こちらはそのうちのひとつ。
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郡上市美並町・粥川地区です。のどかな里山風景。

長良川の支流・粥川はニホンウナギの群生地として国の天然記念物に指定されています。ウナギを食べないだけでなく、粥川ではウナギを獲るのもダメ。
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粥川沿いにはこういった看板がたくさん見られます。

「うなぎ天国橋」なんていうステキな橋もありますよ。
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平成24年3月竣工。確かに獲られることのないここ粥川は、ウナギにとっては天国かも。

集落の最奥にある美並ふるさと館の中の「美並生活資料館」では、昔の粥川や美並の人々の暮らしぶりを見ることができます。
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早速入ってみましょう。

館内にあったパネル。
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ウワー!すごい数のウナギがー!えーこれ養殖池じゃないの!?川なの?天然なの?

こちらにはお釜を洗う女性の写真が。ご飯粒をおねだりして、たくさんのウナギが群れています。天然ウナギがまるで池の鯉状態!ていうかウナギ、ご飯粒食べるんだね。
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資料館の職員さん曰く、撮影地は恐らく粥川地区であろうとのこと。昭和30年代ごろまではこんな光景が普通に見られたそうです。

さて美並ふるさと館のすぐ横に、星宮神社という神社があります。
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神社ですが、ご本尊は虚空蔵菩薩なんですね。平安時代の原始修験道に端を発しているようです。

神社の由緒によりますと、天暦の初め(945年ごろ)、この地の人々を悩ませていた鬼を都から遣わされた藤原高光卿が討ち取ったんだそうです。
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生活資料館にあった絵。たぶん、神社に奉納されたもの。このとき、高光卿を道案内したのがウナギで、「神のお使いだから大切にするように」と高光卿が命じたのが、粥川の禁鰻の始まりだそうです。高光卿ご自身が禁鰻したかどうかは・・・不明。ウナギを神使とする虚空蔵菩薩信仰と禁鰻は、セットになってることが多いんだって(黒木真理著『ウナギの博物誌』より)。

ちなみにそのとき討ち取られた鬼の首がこちらになります・・・!
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なぜか遠く離れた和良町の念興寺にそれはあるという。元禄時代に粥川太郎右衛門という人が納めたといわれてます。それまでは粥川にあったのかな。

こちらは、星宮神社奥の矢納ヶ淵。高光卿が鬼退治に使った矢を納め、ウナギを放ったと言われてます。
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おぉ~まことに神秘的。矢納ヶ淵のある粥川谷は、岐阜県の名水50選にも選ばれてます。粥川、ホントに水キレイです。

さてこの星宮神社では「ウナギ供養祭」が行われているようです。
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ちょうどオワコマが行った日の岐阜新聞に記事が載ってました。郡上調理師会が主催しているようです。取材前日に開催されたのかと思って地団駄を踏みましたが、約一週間前の7/6に行われたそうです。

この池ですね。ウナギの姿は見えませんでした。どこかに潜んでいるのでしょう。ウナギ的には池よりも川に放流して欲しかったかも?ある研究によると、養殖ウナギは放流しても天然ものに負けちゃうみたいですが。
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禁漁によって大事に守られて来た粥川のウナギですが、環境破壊や乱獲という下流の事情で激減し、いまやほとんど見られないそうです。前述の職員さん曰く、「私が子どもの頃は(神社の)下の川にはウジャウジャいたもんだけどねぇ」。

千年も続く信仰の里の方々を悲しませないよう、我々意識の高い市民としては禁鰻を貫こうではないですか・・・!というわけでうなぎの代替魚といえば、近大が開発に乗り出しているとのことで注目を集めてるのがそう「なまず」。
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というわけでやってきました、じゃん。なまずといえば、川魚料理のメッカ・おちょぼさんこと千代保稲荷界隈。

なまず料理を出すお店は参道に何軒もあります。今日は「うな丼」の代替ということで、「なまず丼」をメニューに載せている稲金本店にお伺いしました。
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こちらが「なまず丼」1,800円になります。1,800円!正直、稲金さんのうな丼1,550円なんだが。。。

ナマズの蒲焼き、こんな感じです。以前、琵琶湖博物館ナマズバーガー(フィレオフィッシュみたいになってるの)を頂いたことがあるので大体わかってはいたのですが、
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見た目とは裏腹に、食べ物としてのナマズは全然ウナギぽくないです。非常に繊細な白身魚。

皮はいい感じにパリパリしてます。オワコマ、魚の皮好きなんだよね。
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脂はあまりありません。さっぱりして上品でとても美味。ということはすなわちウナギとは別物。こちらでは骨取りしていないので、丼として食べるのはちょっと厳しい。蒲焼き単品(2,000円~4,000円)の方がオススメです。

稲金さんのナマズは近くの川で漁師さんが獲ったものだそうです。
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店内の生け簀にたくさんのナマズいました。君たち天然ナマズなんだね~

丑の日が近づくにつれ、いろいろなウナギ関連商品が目に付くようになります。
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コチラはカルビーの東海限定「ポテトチップス うなぎの蒲焼き味」。山椒が効いた、蒲焼き風味。甘辛くはない。しかし原材料に「うなぎエキス」とあるではないか・・・!しまったダマされた、ウナギ・フリー商品じゃなかった!くっ、、、、我が禁鰻の誓いここに破れたり。

ローソンからはこんなのも。
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からあげクン 蒲焼味(甘辛醤油だれ味)」 。「うなぎの蒲焼だれに和山椒をかけたような味わいをイメージ」しているそうで、ほんのり甘辛い衣に山椒がピリッと効いてます。恐らくウナギ・フリー商品。丑の日が近づくとついこういう商品を買ってSNSにアップしたくなるのも、やはり「丑の日と言えばウナギ」というイメージが日本人の中に強固に存在するからでしょうね~

そして流通大手イオンからは代替魚の大本命・近畿大学開発の養殖ナマズ近大発なまず」の蒲焼き発売というニュースが飛び込んで参りました。な、なんだってー!f:id:aquatottotoday:20160725180824j:plain「近大発なまず」とは近畿大学で開発された独自のエサや育成技術を用いて脂の乗りを良くし、ウナギの味に近づけたと言われる養殖ナマズ。まだ供給量が少ないため、今回は全国で5,000枚の限定発売だそう。これはぜひレポートせねばなりません!近場のイオンに入荷状況を問い合わせて買うことができました。半身で税込1,598円。イオンの同サイズのウナギの2~3割安といった価格設定だそう。

あとネット通販でこんなの見つけました。

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うなぎ風かまぼこ「うな蒲(かま)ちゃん」。6パック入で 2,400円。結構高いな~強気だな~~。

両方とも丼にしてみたよ。
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近大ナマズはレンチン(電子レンジによる加熱)だとイマイチとのレビューを読んで、一度洗ってから蒸して、さらにグリル。ちょっと焦げちゃった。

ではまずは近大発なまずf:id:aquatottotoday:20160725180827j:plain
おちょぼさんで食べたのよりふっくらして、皮ももちもち。美味しいです。美味しいけどまあ・・・ウナギというよりは「タラ」ですかね。尾身の方は割りとウナギに近いかな。将来的には生産量を増やし、現在の半額程度に抑えることを目指しているそうですので、値段と好みの兼ね合いになろうか、といったところ。

でうな蒲ちゃん。断面はこんな感じでモロ練り製品なんですが、
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こっ、これちょっと衝撃の再現度ほぼウナギじゃん・・・!ネチネチと粘り着くような食感は脂の乗ったウナギそのもの。小骨っぽいなにかも混ぜてあるという芸の細かさ。原材料にウナギは載っていませんが、筆頭の「魚肉」がウナギの肉だったら怒るよ(笑)

意識していた訳ではないけど、オワコマ自身はもう15年くらいウナギを食べていません。ウナギをお店で買ったり、お店に食べに行くという習慣がもともと無かったからです。なぜかというと実はオワコマの実母の実家、農業の傍らウナギの卸売りをやっていたんですね。
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田んぼの隅にあった、ウナギ池。小さい頃から一年中、ウナギは嫌になるほど食べて食傷気味でした。正直、大人になるまで高級魚とは知らなかったんですよね。

浜名湖から仕入れた活鰻をウナギ池で生かしておいて、注文があると捌いてホテルや料理店などに出荷していたようです。
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今は亡き伯母がほぼ一人で切り盛りしてました。こういうのは見たことある方多いかも。

ワタと背骨をいっぺんにジャーッと削ぎます。
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見事な手際でした。慣れているので一匹おろすのもあっという間です。このあと白焼きにして出荷します。ウナギ屋を廃業すると聞いて、最後の丑の日を目前に記録した写真です。廃業は代替わりのためですが、奇しくもこの年(1991年)、日本の一世帯あたりの年間平均蒲焼購入額はピークに達し、この後どんどん減っていきます。中国産によって価格が押し下げられたり、より安価なチェーン店の外食にシフトしていったのが原因かな。

業界では近年入手困難になりつつあるニホンウナギを使った蒲焼きから、別の商品へ誘導する流れも見え始めています。まあ少々遅きに失している感もありますが。
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本来「夏バテ対策に精をつけよう!」というのが趣旨なんだから、ウナギじゃなくてもいいはず。「う」のつくものを食べると良い、という説もありますよね。環境に配慮する企業としてイメージもアップするし、手放しで評価するには若干抵抗がありますが、少なくとも悪くない傾向かと思います。

今回の取材で最も愕然としたのは、子らにうなぎチップスを食べさせて「どお?うなぎの味する?」って聞いたら「うなぎ食べたことないからわかんな~い(゚∀゚)」と言われたことです。そうか・・・そうだよね・・・。禁鰻は親の勝手ですが、将来・未来の子どもたちが食べる分まで、今生きているわたしたちが横取りして買い漁って、絶滅するまで食べ尽くしている現実を痛感しました。散々ウナギを食べて来たわたしたちに、子孫に禁鰻を強いる権利はありませんよね。
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ウナギ信仰や、はるか縄文時代から続く素晴らしい日本のウナギ食文化を絶やさないためにも、ウナギはハレの日に、よそ行きでいただくものにしたいですね♪

 

禁鰻のススメ 大量消費で絶滅の恐れ
「岐阜の自然考 ふるさと ぎふの多様ないきものたち」P.98

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難易度:★☆☆☆☆

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郡上市粥川地区の星宮神社は東海北陸道美並インターから車で15分。美並生活資料館は神社のすぐそばにあります。入館料は高校生以上210円、小中学生100円。定休日は月曜日(月曜日が祝祭日の場合はその翌日)および12月27日~1月4日です。粥川地区を中心とした美並の昔の暮らしがジオラマで再現されています。併設の円空ふるさと館の約95体の円空仏も必見(信仰の対象なので、こちらは写真・スケッチなどは禁止です)。矢納ヶ淵は星宮神社から上流方面に歩いてすぐ。なお、神社最寄りのお食事処「ふくべ苑」は2015年12月26日をもって閉店となっております。
「おちょぼさん」こと千代保稲荷神社ではなまず料理の他、ウナギやモロコ、フナ、川エビなどいろいろな川魚料理が楽しめます。川魚の他にも、参道には串カツや土手煮などたくさんのお店が軒を連ね、毎月末から月初にまたがる「月並祭」はたくさんの参拝客で賑わいます。
ちなみに和良町・念興寺の鬼の首の拝観は土日のみ10:00~15:00。拝観料250円。写真撮影は禁止です。(記事中の画像は近くの道の駅・和良の案内看板より)