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「岐阜の自然考」をめぐる旅

見て知ることが第一歩。あふれだす身近な自然への愛情を18名の執筆者が語るエッセイ『岐阜の自然考』。その舞台をめぐる旅に出ます。

満てよふるさとへ・カスミサンショウウオ

サンショウウオ」といえば一般的にはオオサンショウウオをイメージする方が多いと思いますけど、日本には、大きくても20cmくらいの小さいサンショウウオ、小型サンショウウオの仲間がなんと28種類もいます。え知ってました?すごいですね、オワコマは数年前まで全く知りませんでした。
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その中の一種、カスミサンショウウオです。いやー可愛いですね、ムッチムチですね。こんな素敵ないきものが、なんと岐阜市にも生息してるんですね、最高ですねー。

 自然考によりますと「本種は西日本に広く分布する10センチほどの小型サンショウウオ」で「岐阜県(と愛知県)は本種の分布東限に当たり生物地理学的に貴重な場所」であり、特に「岐阜市の集団は絶滅寸前」。とても稀少なんです。この稿の執筆当時、県内で見つかっている自然生息地は「岐阜市揖斐川町の、ある限定された2ヵ所」だけでした。が!最近海津市でも32年ぶりに生息が確認されるというニュースが報じられました。

絶滅危惧種のカスミサンショウウオ 海津市で卵のう発見 − 岐阜新聞 Web

すごいですね!快挙!!「岐阜高の高木雅紀教諭」、後で登場します。グフフ。

カスミサンショウウオは湿地や水田の溝などのたまり水、いわゆる「止水」に産卵します。卵は、透明な袋=卵のうに入っています。メス一匹につきこの卵のうを一対産みます。クルンと巻いてますね。孵化したオタマジャクシ(幼生)は水中で成長して、初夏に変態、上陸していきます。幼生がまた、カワイイんだよね~。f:id:aquatottotoday:20160615155440j:plain
水と陸、そして両方をつなぐ移動路(いわゆる移行帯、エコトーン)がセットで確保されていないと命をつないで行けない両生類は、開発や環境の変化によって世界的に減少傾向にあるようです。カスミサンショウウオ環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類、1ヵ所しか生息地が確認されていない岐阜市では絶滅危惧Ⅰ類、「貴重野生動植物種」に指定されてます。許可なく採っちゃだめ。このカスミサンショウウオを守るため、岐阜市では積極的に保全活動を展開しています。

そのひとつが「域外保全」。本来の生息地以外で計画的に希少種を増やして、絶滅のリスクを下げる取り組みです。公表されている域外保全地のひとつが世界淡水魚園水族館アクア・トトぎふ。貴重な貴重な岐阜市カスミサンショウウオ、ガラスケースに入れて空調完備の豪華施設でさぞや大事に、セレブ待遇で飼われているんだろう・・・と思ったらなんと、建物ウラの一画に「ほったらかし」なんだそうです。ええええええぇぇぇぇ!
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クルマがとまってる横の、あの木の下のへん。こちらに水場を作って幼体を放ったところ、なんと初年度に繁殖に成功したそうです。詳しくは公式ブログで。すごいですね!やっぱり四季の変化が感じられる自然の中が良いのでしょう。人類でも、大自然の中で繁殖行動に及びたくなるタイプの方が稀に見られるでしょう、それはきっとヒトがかつて野生であったことの名残・・・ではないと思いますが。ちなみにブログの結びに登場する2012年のGWプレミアムバックヤードツアーに参加するまではオワコマ、平日の昼間はイオンモールをブラブラして時間を潰す普通の主婦だったんですよねー。。(遠い目

さてこの域外保全、毎年岐阜高校の自然科学部生物班のみなさんが市内の生息地で自然繁殖した卵のうを保護し、岐阜高校アクア・トトで上陸幼体まで育ててから生息地と域外保全地へ放流する、という流れになっています。
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幼体になるまで保護するのは、自然環境下では死亡率約90%と言われる幼生の、生存率を底上げするため。2ヵ所で分担飼育しているのは万が一のためのリスク分散の意味もあるんでしょうかね。

さてそんなある日、「いまバックヤードツアーに参加すると岐阜市のカスミの幼生を育ててるとこを見れる」という情報がオワコマの元へ飛び込んで参りました。な、なんだってー!
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競争率の高い土日祝限定のバックヤードツアー、開館前から並んで見事1ゲット。すごい気合い。

ツアー終盤、2Fコンゴ水槽の裏側に通じる扉の向こうに。
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・・・・・・・・・!

キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! ご覧下さいスゴイ数の、幼生・幼生・幼生・・・!
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その数なんと約2000匹!100%岐阜市産!生物地理学的に貴重な遺伝子を受け継ぐ、希望の子たちです。

さてその域外保全地、公表されている場所はアクア・トトの他にもう1ヵ所あります。それがこちら、岐阜大学構内にある「淡水生物園」です。
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もともとはニホンイシガメの保護増殖地として造成されたそうですが、関係各者の要請により、2011年からこちらでもカスミサンショウウオの放流が始まったそうです。2014年に一般公開された放流見学会にはオワコマも参加してます。今回の取材のため、淡水生物園を立ち上げられた応用生物学部・楠田哲士准教授に見学を申し込んでみたところ、快諾いただきました。ありがとうございます! 楠田先生思いっきり執筆者ですけど今回ばかりは仕方ありません。執筆者の助けを借りないルールが最近あやふやになってきてます。最初のころは「絶対電気つけないで!」とか言っていた乙女が逢瀬を重ねるごとに大胆になってくような感じですかね。一応解説しておくと、「○○はどこで見られるんですか?」と聞くのがダメというルール。だから元々知ってた今回もセーフ。

今年の放流はアクア・トトを除く3ヵ所に、3回に分けて行われます。本日は第1回目。保全活動を統括する岐阜市役所・自然環境課の方による放流です。
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これくらいの上陸幼体は親のミニチュア版みたいで、幼生とはまた違った異様な可愛らしさがあります。

みんな元気でね~。
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今回のこちらへの放流数は70匹。アクア・トト育ちの幼生たちです。

餌やりなどは特にしないそうで、自然のまま。
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2014年には幼生も見つかり、この場所で繁殖活動が始まったことが確認されたそうです。生息地での個体数回復と共に、「域外保全地での繁殖のスタートは、カスミサンショウウオ保全活動にとって、新たなステージ」(自然考より)。全然関係無いけどM先生にウシガエルもらったのはこんときです。先生ヒマなのかな。

第1回目の放流から約3週間後。楠田先生より「岐阜高校の生徒さんによる放流が行われる」という報せを受けました。3ヵ所の放流地のうち1ヵ所目の自然生息地では、地域住民の方をお招きしての放流会を開催。新聞2社も取材に来てました。
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生息地は非公開のため、場所が特定されないようモザイク処理でお送りします。処理しすぎですね、訳わかんないですね。薄目で見ると壁際で放流と保全の概要を説明する岐阜高校・自然科学部生物班の生徒さん2名、左手に中日新聞の女性記者さん、右手に住民のみなさんと子供たちが見えてきます。見えてきません?

興味シンシンで覗き込む子どもたち。本日放流分は全て、岐阜高校育ちの幼生です。その数は3ヵ所合計で2040匹!生物班のみなさん、毎日水替えしてたそうです。もちろんGWも交替で。きちんとフタをしないと、脱走して干物になっちゃうそうです。サンショウウオって意外と垂直面登れるんですね!?
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「あら~今年は大きいわね~」という声も聞かれました。毎年放流会に参加頂いているのですね♪「やだーモズク食べられなくなっちゃう~。アーッハッハッハ!!!」という率直なご意見も聞かれましたが\(^o^)/ やはり生き物はいいですね、ケースのフタが開いた途端、カスミを囲んでみんな笑顔で和気あいあい、一気に和やかなムードになりました。

みんなで手分けして放流していきます。金網の向こうにいる岐阜新聞の記者さんから、顔上げて!止まって!もうちょっとこっち見て!などめっちゃポーズ指導が入ってます。ドクダミのニオイも結構ヤバイ!!みんなカスミ広報のため頑張るんだー!
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しかし噂には聞いていましたが、ホントにギンギラギンにさりげないU字溝・・・!10年くらい前、地域住民の方が「側溝にヘンないきものがいる」とたまたま知り合いだった岐阜高校の高木先生に持ち込まれたのが、カスミサンショウウオの発見に繋がったんだそう。まさに、「足元の宝石」。

写真右手の駐車場と、左手にある産卵地の側溝の間にある段差。もともとはありませんでしたが、除草剤や殺虫剤が側溝に流れ込まないようにするために設けられたそうです。
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こんな風に行政の尽力、地元の人の理解や協力などで、カスミサンショウウオは守られているんですね~

放流会参加者に、生物班からオリジナルしおりプレゼント。これ以前も頂いて、超愛用してます♪
f:id:aquatottotoday:20160615155454j:plain市民のみなさんにカスミサンショウウオをの存在を知ってもらうのも、保全活動の一環です。

生息地での放流会を終えた後は、2ヵ所目の域外保全地(市有地・非公開)に移動。オワコマも同行させていただきました。
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こちらへの放流も、淡水生物園と同じく2011年から継続して行われています。「淡水生物園と従来の生息地に近く、環境が類似」(自然考より)しているため選定されたそう。市有地なら、イオンとかサッカースタジアム作ろうとか言い出さないよね!ないよね

最初はおっかなびっくりだった子どもたちも手慣れてきましたよ。
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こちらには今年3ヵ所で3回、延べ9回の放流の内で最多の1012匹を放流。キャパがある分、少し多めとなっております。この辺の匙加減は、高木先生の長年の経験と鋭い勘によるのだそう。

実はこの放流地、アカハライモリがモッサリいました。え、駆除しないの?と思われるかも知れませんがそれも自然界の定め。強い子だけが生き残れるのです。アカハライモリ自体も、生息数少なくなってますしね。
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よく太った女の子。捕まえたのは高木先生のご子息。高木先生いわく「もうすぐ卵産むよ」。カスミの幼生を放流するようになってアカハライモリが集まってきてる面はあるかも、と自然環境課の方談。痛し痒しですね^^;

さあさあ君たち早く上陸した方が無難だよ~
f:id:aquatottotoday:20160615155458j:plain元気で。強く生きるように。

3ヵ所目、淡水生物園。いよいよ今年最後の放流です。
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ちなみに左から3番目、半袖シャツの方が高木先生。楠田先生は残念ながら本日出張のためお会いできませんでした。

2016年の放流数は、アクア・トトから2830匹、岐阜高校から2040匹の合計4870匹!2007年の放流開始から10年間で最高の数です。
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10年間の合計で、約2万匹です。すごい!

淡水生物園内で、高木先生が成体を見つけました。「3年目(3歳)くらいかな?」とのことです。しかし小型サンショウウオの成体、見つけるのめっちゃ難しいです。高木先生がコガタブチサンショウウオを見つけるまでの秘話もお聞きしました。カエルみたいに鳴いてくれたらいいんですけどね(笑)
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こうやって、域外でも立派に成長している姿をこの目で見届けることができました♪ 生息地で保護できた卵のうの数も、2007年にはたったの6対だったのが今年はなんと62対!放流したカスミたちが順調に育って、繁殖に参加しているという証し、素晴らしい保全活動の成果です。稀少生物の現状を巡る話題はどうも暗くなりがちなので、本当に嬉しいことです。間違いなく、これは岐阜市の誇りですね!

飼育の技術だけでなく、岐阜高校自然科学部生物班は超優秀で、カスミサンショウウオに関する研究成果は全国高等学校総合文化祭・自然科学部門最優秀賞ほか日本ストックホルム青少年水大賞優秀賞や、愛知工業大学サイエンス大賞自然科学部門優秀賞など、数々の輝かしい受賞歴を誇っています。

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堂々たる発表は大人顔負け!「ハプロタイプ・mtDNA・系統樹」が出てくると脳がフリーズするオワコマから詳しく説明はできないのだがスゴいのだ、カスミサンショウウオの系統を分析することで、古代の日本の地形がどうだったとかの裏付けができちゃったりするのだ!詳しくはこの辺を読んでくれたまえ!

アクア・トトさんでも常設展示でカスミサンショウウオを展示して保全の取り組みを紹介している他、幼生を特別展示するなどの普及啓発活動を盛んに行っておられます。こうした各機関の協力と連携で、ふるさとのカスミサンショウウオがみんなに愛され、守られていくのは本当に喜ばしいことです。
f:id:aquatottotoday:20160615155503j:plainこれはおととし・2014年の特別展示。おや。水槽の左下の方になにか冊子がありますよ?

なんということでしょう、こんな素晴らしい冊子が無料で配布されているではないですかー!!!
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楠田先生が編集・デザインの「ぎふの淡水生物をまもる 岐阜の淡水生物保全BOOK」。岐阜高校によるカスミサンショウウオ保全活動や、淡水生物園について詳しく書かれています。他、岐阜の淡水生物に関わる話題満載!オールカラーの美しい構成でめくるだけでも楽しく、保全の最前線にいる執筆陣による文章は読み応えも充分!製本版をGETできた方、ラッキーでしたね~(※写真は増補改訂版)♪ 現在はPDFで読むことができます。ダウンロードはこちらから。楠田先生、これパワポで作ったんだって。すごいよね。楠田先生みたいな器用な人が世に溢れたら、オワコマみたいな弱小デザイナーは失業しちゃう\(^o^)/

分布域は広いカスミサンショウウオですが、移動距離が小さいため各地域の交流は少なく、分布先の個体群ごとに固有な遺伝子を持っています。「みんな同じ」じゃないんですね。遙か太古の時代の記憶を遺伝子に乗せて、連綿と伝え続けるここだけの、「ふるさとの」個体群。
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多くの人の手を経て繋いだ命、絶やすことなく大事に、みんなで守っていきたいですね♪

 

カスミサンショウウオ 岐阜市の集団、絶滅の危機
「岐阜の自然考 ふるさと ぎふの多様ないきものたち」P.108
カスミサンショウウオ 希少種の保全、成果着々
「岐阜の自然考 ふるさと ぎふの多様ないきものたち」P.113
カスミサンショウウオ 岐阜大内でも放流、保護
「岐阜の自然考 ふるさと ぎふの多様ないきものたち」P.121
カスミサンショウウオ 新たな生息地で成長中
「岐阜の自然考 ふるさと ぎふの多様ないきものたち」P.128
カスミサンショウウオ 域外保全地で繁殖着々
「岐阜の自然考 ふるさと ぎふの多様ないきものたち」P.186

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難易度:★★★★☆

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アクア・トトぎふでは4F長良川上流フロアにて、常時成体を観察することができます。4~5月に幼生が特別展示されることが多いので、公式HPTwitterFacebookなどをチェックして下さい。メルマガ会員(無料)になるとイベント情報が届きますのでオススメ。淡水生物園は岐阜大学構内にあります。外部者の入構には許可が要りますので、見学したい方は応用生物科学部・楠田哲士准教授にご連絡(メール推奨)を。ただしカスミサンショウウオの成体は繁殖期以外は基本的に石や落ち葉の下に潜っているため、見学しても恐らくほぼ見ることはできません。なおカスミサンショウウオは条例で貴重野生動物種に指定されていますので、岐阜市で許可なく捕獲することは禁じられています。